最大実体公差方式

最大実体公差方式とは

機械製図の中で最も難しい概念のひとつが最大実体公差方式だと思います。理解してしまえばすごく便利で必要なものだと考えることができますが、理解するまではやっかいな存在かもしれません。

最大実体公差方式の必要性を簡単に説明すると、はまり合うように設計されている2種類の部品が、実際にはめ合わせてみると”はまらない”ということが起きないようにすることと、はめ合わせるために過剰に厳しい寸法公差を設定するのを防ぐためのものです。

1つの穴と軸に対してのはめ合わせの場合は、はめあい方式によるはめあい公差を適用すれば問題ありません(幾何公差が必要な場合を除く)。しかし、下記のような2つ以上の穴と軸では、個別のはめあい公差を満たしていても位置がズレていればはまり合わないこともあります。

2つの穴と軸のはめあい

※ここでは説明のため、省略されている寸法は理論値、幾何公差は0となっているものとします。また、分かりやすいように、はめあい公差の記号は使用せずキリの良い数値を使用しています。

設計する人は、この2つの部品の穴と軸の各寸法が最悪の状態でもはまり合うように設計しなければなりません。最悪の状態とは軸径が最大(φ9.99)で、穴径が最小(φ10.01)の状態です。その差は0.02となり、2つの部品の位置寸法である30寸法の差も0.02以内に抑えなければならないので、30寸法に公差をつけるならば、30±0.01となります。

もし、30±0.02にしてしまうと、一方の部品が29.98で、もう一方の部品が30.02の場合に、差が0.04になってしまうのではめ合わせることができません。

しかし、軸径が最小(φ9.90)で、穴径が最大(φ10.10)の場合は、30±0.1でもはめ合わせることはできるので、この寸法公差は過剰に厳しいと言わざるを得ません。過剰に厳しい公差は加工コストを増大させてしまいます。

このような場合に最大実体公差方式を適用します。幾何公差の数値は、軸径と穴径が最悪の状態でもはめ合わせることが出来る最大の数値を記入します。

最大実体公差方式の適用例

このとき許容される位置度公差は、2つの穴径が同じ、または2つの軸径が同じ場合、下記の表のようになります。

穴径と位置度公差の関係
穴径許容される位置度公差
φ10.010.02
φ10.040.05
φ10.070.08
φ10.10.11
軸径と位置度公差の関係
軸径許容される位置度公差
φ9.90.11
φ9.930.08
φ9.960.05
φ9.990.02

一般に、許容される幾何公差の計算式は下記のようになります。

許容される幾何公差=指示された幾何公差の値 + |最大実体寸法 - 実際の寸法|
※"| |"内は絶対値

一般事項

最大実体公差方式での用語

穴に対する位置度公差

対応するピンが最も好ましくない状態のもとでも、部品の組付けが可能な穴となる。

指示例と説明

穴に対する位置度公差の最大実体公差方式 穴に対する位置度公差の最大実体公差方式 最小穴径の場合 穴に対する位置度公差の最大実体公差方式 最大穴径の場合

データム平面に関連する穴の直角度公差

対応するピンが最も好ましくない状態のもとでも、部品の組付けが可能な穴となる。

指示例と説明

穴に対する直角度公差の最大実体公差方式 穴に対する直角度公差の最大実体公差方式 最小穴径の場合 穴に対する直角度公差の最大実体公差方式 最大穴径の場合

データム平面に関連する軸の直角度公差

対応する穴が最も好ましくない状態のもとでも、部品の組付けが可能な軸となる。

指示例と説明

軸に対する直角度公差の最大実体公差方式 軸に対する直角度公差の最大実体公差方式 最大軸径の場合 軸に対する直角度公差の最大実体公差方式 最小軸径の場合

軸線の真直度公差

指示例と説明

軸に対する真直度公差の最大実体公差方式 軸に対する真直度公差の最大実体公差方式 最大軸径の場合 軸に対する真直度公差の最大実体公差方式 最小軸径の場合

データム平面に関連する軸の平行度公差

指示例と説明

軸に対する平行度公差の最大実体公差方式 軸に対する平行度公差の最大実体公差方式 最大軸径の場合 軸に対する平行度公差の最大実体公差方式 最小軸径の場合

ゼロ幾何公差方式

ゼロ幾何公差の最大実体公差方式 ゼロ幾何公差の最大実体公差方式 最小穴径の場合 ゼロ幾何公差の最大実体公差方式 最大穴径の場合

参考・関連規格
メニュー
一般
図形の表し方
寸法記入方法
寸法公差
幾何公差
その他